ブロックチェーン抽出可能価値の定量化：ダークフォレストの闇の深さ

目次

1. 序論

ブロックチェーン抽出可能価値（BEV）は、分散型金融セキュリティに対する根本的な課題を表しており、機会主義的なトレーダーが戦略的なトランザクション順序付けを通じてDeFiスマートコントラクトから金銭的価値を抽出しています。900億ドル以上がDeFiプロトコルにロックされている現状において、BEV抽出への財務的インセンティブは、自動化されたトレーディングボットとマイナーエクスプロイテーションの高度なエコシステムを生み出しています。

パーミッションレスブロックチェーンの透明性は両刃の剣となります：トラストレスな取引を可能にする一方で、正当な取引をフロントランできる捕食的アクターに収益性の高い機会を晒すことになるのです。本研究は、複数の抽出手法にわたるBEVの初の包括的定量化を提供し、ブロックチェーン合意形成セキュリティへの実践的リスクを評価します。

2. ブロックチェーン抽出可能価値分析

2.1 BEV抽出手法

主に3つのBEV抽出手法が支配的です：

• サンドイッチ攻撃：被害者のトランザクションの前後に取引を配置して価格差を獲得する
• 清算：レンディングプロトコルにおける担保不足ポジションの悪用
• アービトラージ：分散型取引所間の価格差を利用する

2.2 定量的BEV測定

我々の分析は32ヶ月間のブロックチェーンデータを対象とし、49,691の暗号通貨と60,830のオンチェーン市場をカバーしています。総抽出BEVは5億4054万ドルに達し、11,289のアドレスに分配されました。

3. 技術的フレームワーク

3.1 汎用トレーディングボットアルゴリズム

被害者トランザクションの基礎となるロジックを理解することなく、未確認トランザクションを置き換えることができる汎用トレーディングボットの初の具体的アルゴリズムを紹介します：

アルゴリズム：汎用トランザクションリプレイ
入力：保留中トランザクションプールT、ガス価格G
出力：収益性のあるトランザクションシーケンスS

1. メンプールで着信トランザクションT_iを監視
2. 各T_iについて、実行をシミュレートし利益P_iを推定
3. P_i > 閾値θの場合：
   a. ガスG' > GでフロントランニングトランザクションFを構築
   b. バックランニングトランザクションBを構築
   c. シーケンス[F, T_i, B]をネットワークに送信
4. 全ての収益性のある機会について繰り返し

このアルゴリズムは、32ヶ月間にわたり57,037.32 ETH（3537万ドル）の推定利益を生み出しました。

3.2 数学的定式化

マイナーがチェーンフォークを行う収益性条件は以下のように表現できます：

$$P_{BEV} > \frac{R_{block}}{\alpha} \times C_{fork}$$

ここで$P_{BEV}$は抽出可能価値、$R_{block}$はブロック報酬、$\alpha$はマイナーのハッシュレート比率、$C_{fork}$はフォークコストです。イーサリアムの場合、10%のハッシュレートを持つ合理的なマイナーは、BEVがブロック報酬の4倍を超える場合にフォークを行います。

4. 実験結果

4.1 BEV抽出統計

我々の分析は驚異的なBEV抽出数値を明らかにしています：

• 最高単一BEVインスタンス：410万ドル（イーサリアムブロック報酬の616.6倍）
• 非公開リレーサンドイッチ攻撃：240,053回の攻撃で8104万ドルを獲得
• 非公開リレーアービトラージ：110,026インスタンスで8275万ドルを獲得
• トランザクションリプレイ可能性：188,365トランザクションで3537万ドルの抽出可能価値

4.2 セキュリティへの影響

BEV抽出の集中は、合意形成レイヤーに重大なリスクを生み出します。集中化されたBEVリレーシステムは、集中化された障害点と調整ポイントを作り出すことで、これらのリスクをさらに悪化させます。

5. BEVリレーシステム分析

新興の集中化BEVリレーシステムは、BEV抽出の力学における根本的な変化を表しています。これらのシステムは：

• BEV抽出のための集中化調整ポイントを作成する
• チェーン再編成へのマイナーインセンティブを増加させる
• トランザクション順序付けの透明性を低下させる
• 大規模な合意形成攻撃を可能にする可能性がある

我々の分析によると、リレーシステムは重要なBEV価値を獲得しています：240,053回の非公開リレーサンドイッチ攻撃（8104万ドル）、1,956回の非公開リレー清算（1069万ドル）、110,026回の非公開リレーアービトラージ（8275万ドル）。

6. 将来の応用と方向性

BEVの状況は、いくつかの重要な発展とともに進化し続けています：

技術的対策

• 公正なシーケンシングサービスとコミット・リビール方式
• トランザクション秘匿性のための閾値暗号
• MEVを意識した合意形成メカニズム（例：イーサリアムの提案者・ビルダー分離）

規制上の考慮事項

• 証券法におけるBEV抽出の分類
• DeFiプロトコルに対するアンチフロントランニング規制
• マイナー抽出可能価値の透明性要件

プロトコルレベルソリューション

• 自動化マーケットメーカー設計の改善
• 時間ベースのトランザクション順序付け
• 分散型ブロック構築市場

7. 参考文献

1. Qin, K., Zhou, L., & Gervais, A. (2021). Quantifying Blockchain Extractable Value: How dark is the forest?
2. Daian, P., et al. (2020). Flash Boys 2.0: Frontrunning, Transaction Reordering, and Consensus Instability in Decentralized Exchanges.
3. Torres, C. I., et al. (2021). Frontrunner Jones and the Raiders of the Dark Forest: An Empirical Study of Frontrunning on the Ethereum Blockchain.
4. Zhou, L., et al. (2021). High-Frequency Trading on Decentralized On-Chain Exchanges.
5. Eskandir, S., et al. (2022). The Distributed Network of Transparent Dishonesty.
6. Buterin, V. (2021). Proposal for mitigating MEV in Ethereum 2.0.
7. Goldman Sachs Research (2022). DeFi and the Future of Finance.
8. IMF Working Paper (2022). Decentralized Finance and Financial Stability.